【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第31章 Final Stage Ⅳ 〜絶望の先に咲く香りの花〜
「さて、彼方も決着がつきそうですね」
フョードルは香織の髪を払い、立ち上がりながら美鈴のほうを振り返る。
美鈴が福地と戦っているところに、フョードルの声が届く。
「まだ倒されていないのですか、しぶといですね」
フョードルは不愉快そうに目を細める。
「フョードル!?」
美鈴は斬撃を避けつつ、地面に寝かされた香織を見つけ、目を見開く。
「あんた!香織に何を!!」
怒気を帯びた声に、フョードルはゆったりと片手を掲げて見せる。
「安心してください。死んでません、気絶をしてるだけです。福地さん、そこの女性を早く消してください」
雨御前の刃が、美鈴の額を貫くはずだった。
しかし、空気そのものが弾いたように、福地の剣が軌道を逸れた。
刃を受け止めるものなどないのに、何かが結界のような力が、そこにあった。
福地が弾かれた剣先をゆっくりと構え直す。
フョードルの視線は逸らさずに、その光源を探す。
地面に横たわっていたはずの香織が別人のように立っていた。
黒髪は淡い水色に透け、瞳は宝石のような氷の青に染まっている。
纏う空気は澄み切っていて、それでいてどこか古の神域を思わせるほどの厳粛さがあった。
「か、おり?」
美鈴の声が、思わず零れた。
香織は応えない。
目を伏せたまま、指先がわずかに動く。
その周囲に、桜とは違う白銀の残響のような粒子が漂い、福地の足元で微かに揺らぐ。
「まさか……」
フョードルの口元が、ほんの僅かに歪む。
その声音は、誰にも聞こえぬほど低い吐息。
香織は微動だにしない。
この時、香織の中で何かが起きていた。