【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「おやおや」
「死を懼れよ、殺しを懼れよ‥‥死が無垢なる御魂を弄ぶ時、悲嘆の巷に零れるが故に」
彼の背後からうねるように現れるのは−−−羅生門。
だが、その形はこれまで見たものとは違っていた。
漆黒の羅生門が、盾となり、剣となり、騎士のような意匠を構築する。
その姿はどこか、古の聖堂騎士を思わせる異様な荘厳さすら纏っていた。
「芥、川?」
敦の声が、震えた。
だが芥川はその声に目もくれず、淡々と歩み出る。
「成程」
フョードルが指先を唇にあて、くすりと笑う。
「ブラムさんの置き土産ですか。確かに吸血種の権能が残っていれば血臭を辿り、ここを嗅ぎ当てるのも可能」
芥川は一度だけ、騎士剣を静かに掲げ、盾を構える。
その姿勢は完全なる戦闘態勢。
「恨みはない。だが、この騎士剣の誓いに殉じ、姫と庶に害成す夷狄を討つ」
その姿はまさに、闇に仕えし騎士だった。
「戦う目的は同じだ。福地を止める」
「三人共、福地さんの刃に触れられたらアウト。取り込まれる」
香織の忠告に芥川は無言でうなずく。
だがその動きには、まるで心臓の鼓動のように鋭い緊張感が宿っていた。
黒き羅生門が地を這い、芥川の背後から無数の刃を形成していく。
「行け」
「お前に言われなくても!」
二人の姿が、一直線へと福地へ同時に駆けた。
「『残煌乱舞』」
鮮やかな桜の花弁が爆発するように咲き乱れ、福地を中心に渦巻く。