【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「『桜花爛漫・紅絶華』!」
美鈴の掌から咲き誇るように紅の桜が舞い上がり、一斉に爆ぜるようにして敦と福地の間を断ち切る。
その花弁は光を纏い、まるで刃のように空間を裂いた。
「敦君! 大丈夫!?」
駆け寄った香織が、倒れ込む敦の腕を抱きかかえる。
血にまみれたシャツ、呼吸が浅い。
それでも彼の目はしっかりとこちらを見つめていた。
「如月さん!?」
「撤退するわよ!」
美鈴の鋭い声が飛ぶ。
「うん!」
香織は転移石を取り出し、震える手でそれを地面へ打ちつけようとした瞬間、ガキィンと音がしたのと同時に閃光を視界に捉える。
福地が異能の一閃で、転移石を粉々に砕いた。
香織の目が見開かれる。
「彼奴!転移石を粉々にしやがった!」
美鈴は舌打ちし、桜の残滓を纏わせたまま再び構え直す。
「私が福地の相手をする!香織は敦を連れて逃げて!!」
その言葉を引き裂くように、どこか冷たい声が上空から降ってきた。
「僕が、そう簡単に貴女方を逃がすとでも?」
黒衣を纏い、微笑を湛えながら、静かに瓦礫の上にフョードルが立っていた。
足音はなかった。
ただ、彼の存在だけが圧倒的に空間を支配している。
香織は無意識に敦を庇い、息を詰める。
「フェージャ…‥」
フョードルはゆっくりと歩み寄ってくる。
血の匂いを纏いながら、まるで懺悔を求める聖職者のように。
「香織−−−貴女は、まだ自分の価値に気づいていないようですね」
香織は目を細める。
「なに、言って……」
香織の背筋に、冷たいものが走る。
フョードルの視線は、彼女の中に『何か』を見ている――そんな気配があった。
香織は一歩後ずさる。
フョードルは笑みを崩さず、静かに囁いた。
「ああ、皮肉ですね。こうして再会しても、貴女は僕を『敵』としてしか見ない」
「……何を……知ってるの……私の、何を!」
香織の手が震える。
言いようのない違和感、背筋に這い寄る悪寒。