【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「急ぐわよ!」
美鈴が駆け出す。
その背中を追おうとした瞬間、香織の脳裏に、『未来』が走った。
意識の深層に突き刺すような映像が流れ込んでくる。
いつもとは違う、異質で、冷たい目をした福地が谷崎と国木田を斬り伏せる。
その刃は助けに駆けつけた賢治にまで届き、引きずり込むようにして福地の口に吸い込んでいく。
そして、その隣に立つのは−−−
「な……んで……フェージャが……?」
香織の目が見開かれる。
未来の光景に、ムルソーにいるはずのフョードルの姿があった。
「未来予知……ね。フョードルもここに?」
美鈴の声が冷たくなる。
感情を削ぎ落としたような、戦闘時の彼女の声だった。
「……うん。なんか、大変なことになってる」
突如、空に赤い煙が上がった。
「あれは!緊急の救助要請の煙!」
煙を見た二人は駆け出して、煙が出ていた場所−−−そこには、敦が苦しげに膝をつく姿があった。
その前に立ちはだかる、異形の存在。
「敦君が危ない!」
香織が踏み出そうとする。
だが、美鈴が手をかざして彼女を制した。
「あれは、私一人の異能じゃ無理ね」
「でも、美鈴ちゃんって準幹部でしょ!?こういうの、朝飯前なんじゃ−−−」
「馬鹿言わないで」
美鈴は険しい表情で言い切る。
その眼差しには、初めて見るような強い緊張があった。
「あれは……人智を超えてるわ」
一瞬の沈黙。
そして、美鈴はポケットから小さな黒い石板を取り出した。
「異能で彼奴の気を逸らす。その間に、これを地面に打ちつけて」
香織はそれを受け取り、怪訝そうに眉をひそめる。
「これはなに?」
「転移石。技術開発部隊が作った装置よ、指定地点に飛ばせる」