【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「現実が改変され、『人類は統一されて当然』と誰もが思う。永久に戦争は無くなる」
「‥‥源一郎」
福沢が低く呼びかける。
声の奥に、確かな痛みが混じっていた。
「それは無理筋だ」
福地の方へ一歩、福沢が踏み出す。
その瞳に宿るのは、怒りではない、断固たる否定だった。
「仮に戦争が無くなってもその世界にあるのは総帥一人による『独裁』だ。そして歴史が証する通り、独裁は必ず腐敗する」
その言葉に、福地はふっと目を細めた。
どこか寂しげに、しかしそれを肯定するように小さく笑う。
「そうだ。だからお前に『あれ』を使わせる必要があった」
福沢の眉がぴくりと動く。
まさかという思いが、脳裏をかすめた。
「何故、『大指令』がお前の命令を聞いたと思う?福沢」
福地が目を合わせる。
その瞳は、何かを懇願するようで、同時にすべてを諦めているようでもあった。
「儂の首を落とせ、テロを止めた英雄として」
「お前が総帥となるのだ。他に探偵社を救う道はない。儂の命か探偵社か選べ」
福沢の手に、じわりと汗が滲む。
刀の柄を握る指がかすかに震える。
「小説世界を出たのか、それでいい。悪の首魁を討つ時は目撃者が居らねばな」
福地の言葉には、どこか芝居じみたものさえあった。
だがその奥にあるのは、覚悟。
自分が『悪』の役を演じることに、一片の迷いもなかった。
「最後に何か言い残す事は?」
「無い。やれ」
「やれ!」
福沢は目を伏せ、静かに刀を構える。
刃の先が、ゆっくりと福地の喉元に向かって伸びていく。
風が、止まった。
「‥‥斬れぬ‥‥済まぬ」
「‥‥否、構わぬのだ。儂は−−−」
「済まぬな、燁子」
「貴方は狡い!卑怯です!私の‥‥私の想いを知っていて!」
福地の背後を大倉が剣で突き刺している。
傷だらけになった福沢は啞然としてその様子を見ていた。
「源‥‥一郎?」
大倉は剣を抜くと福地が倒れる。
福沢の手に福地を刺した剣を大倉が握らせる。
「貴様が殺した。貴様が斬った‥‥そうせよ、でなくば許さぬぞ!」
丁度、その場に居合わせた文とブラムが一連の流れを見ていた。
「黒幕が‥‥倒された。やった!事件は解決した!倒したんは探偵社の社長や!流石探偵社!凄い!やった!」