【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第5章 母が遺したもの
「かーしゃま!」
「ん?な~に?」
目の前でじゃれつく幼い女の子と、先程見た藤色の着物を着た女性が女の子の頭を撫でる。
(あの子は−−私だ)
そして、藤色の着物を着た女性は母だ。
(思い出した。全部‥‥)
私の名前は柳瀬香織じゃない。
私の本当の名は如月香織。
柳瀬和雄は私の養父で、血の繋がった父の顔は知らない。
物心ついた時から母さんしかしなかった。
「かーしゃま、何で私にとーしゃまがいないの?」
気になった私は父について聞いたことがあった。
父の話をすると、母さんは悲しげな顔をする。
「あなたの父さんはね、ここから海を渡ったところにいるのよ」
今なら分かる。
恐らく大人の事情というものなんだろう。
ひっそりと静かに母さんと暮らしていた。
そんなある日、私の幸せな時間は突如終わりを迎えた。