【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第5章 母が遺したもの
「ここが‥‥」
そこは平野で、何かしらの建物があった形跡だけが感じ取れる。
建物は立っておらず、辺りには建物の残骸があちこちに散らばって、悲惨さを物語っている。
「研究所、ボクと香織が出会った場所」
香織は一つの残骸の前に足を運んで、屈む。
それは、小さな子供が座る椅子だった。
「というか、太宰と中也を連れて来なくて良かったの?」
「うん、忙しいそうだったし、森さんに言って来たから大丈夫」
香織は椅子の平面を指でなぞる。
(この場所で一体何があったの?)
「そんなに思い出したい?記憶を」
「思い出さないといけない。そうしないと前に進めないから」
どうやって思い出すのか分からない。
研究所跡地に行けば何か分かるかもしれないと思った。
「でも、ここに来ても何も思い出せないや。無駄足だった」
帰ろうと香織を立ち上がるが、立ちくらみがする。
(貧血かな?)
歩き出そうとした足を一歩前へ踏み出した瞬間、香織の意識が暗闇に溶け込んだ。
◆ ◆ ◆
いつか見た景色に香織は息を呑む。
また、同じ夢なのかと目の前にある満開に咲く桜の木を見上げる。
ザクと聞こえる足音と共に、香織の隣には夢で見た藤色の着物を着た黒髪の女性が立っていた。
「あなたは‥‥」
女性は儚げに微笑み、木の幹のほうに指をさす。
(触れろってこと?)
勝手に解釈した香織は木の幹に触れる。
ブワッと香織の身体が桜の花びらに包まれ、香織はまた暗闇に包まれた。
(そうか、あの人は‥‥)
意識を失う前に気付いた。
あの女性は自分を助けるために出てきたのだろうと。