【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「解毒剤も手に入った、脱出だ」
太宰と中也はシグマを探しにムルソーの中に戻った。
その足音が遠ざかると、夜の静けさが瓦礫の広場を支配した。
ディアナは瓦礫に埋もれるフョードルの死体を無言で見下ろす。
「死んじゃった」
小さく呟いた声は、まるで誰かに聞かせるでもなく、自分自身に確認するようだった。
ディアナは一歩だけ近づき、そっと膝を折り、瓦礫の隙間にしゃがみ込んだ。
瓦礫の破片を爪先でそっとどける。
白く土埃を被ったフョードルの囚人服の裾が、かすかに揺れた。
(人が死ぬのは呆気ないものだな、あのダディが破れて死ぬなんて思いもしなかった)
思わず伸ばした指先が、血で滲んだ布を掴みかけて止まる。
触れてしまえば何かが壊れそうで、そのままゆっくりと拳を引いた。
「おやすみ‥‥それと、ここまで育ててくれてありがとう」
小さく吐き出した声は、死体に届くはずもなく夜気に溶ける。
瓦礫に触れていた手を引くと、指先に赤黒い血がついていた。
ディアナはそれを見つめ、拭うことなく拳をぎゅっと握りしめる。
(ダディ死んだし、これからどうしようかな)
ディアナは立ち上がり、ムルソーから立ち去った。