【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「‥‥では、すべて」
「そう、『演目』だよ。銃弾を重力で遅くし、私の頭を撃つ」
太宰が指で額を叩いてみせる。
「弾は頭蓋骨で止まる‥‥この手、昔よく使ったねぇ」
「五月蝿え」
「画面越しでは弾速まで見えない。そして、水責めは本当の目的から君の意識を逸らす為のものだよ」
「本当の目的?」
「その傷。爆発で手を怪我すれば運転を吸血種に任せるしかない。そして、吸血種は−−−」
フョードルの目がかすかに見開かれる。
「待っ−−−」
ヘリが轟音を立てて上昇し、太宰の瞳は虚空を映す。
「さようなら、ドストエフスキー」
ヘリが建物に激突し、爆炎が弾ける。
「で?貧血野郎は死んだのか?」
「ああ、ドストエフスキーは間違いなく死んだ」
太宰は瓦礫の中から千切れたフョードルの片手をぶら下げる。
「おめでとうゴーゴリ、彼を殺したかったんだろう?」
「ああ、その通りだ」
「‥‥いや、違う‥‥いや、その通りだ」
「何だ、こいつ?」
「ドス君と交わした言葉は決して多くない。だが、彼と会って以降の人生はそれまでと全く別物のように感じられる。ドス君の言う通り、僕は『自分を見失う』為に戦ってきた。そして、今そうなった」
ゴーゴリは千切れたフョードルのもう片方の手をそっと胸に抱く。
「今は‥‥ただ」
ゴーゴリは千切れたフョードルのもう片方の手を拾い、悲しんでいるようだ。
「‥‥いつもみてえに皮肉は言わねぇのか?」
「いや、今はやめておこう」
フョードルが落として行った血の付いた解毒剤が入ったケースを太宰が手にする。