• テキストサイズ

【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜






空港では、決着がつきそうだった。
福地と戦っていた福沢は『大指令』を奪って、命令する。

「全軍に命令する!侵攻を中止せよ!」

滑走路に響く福沢の声は、鼓膜を震わせる。
福地は福沢から剣を奪い返そうとし、過去を変えるつもりだ。

「させぬ!」

次の瞬間、福沢諭吉が風のように駆けた。
足元の砂利が爆ぜ、空気を裂くようにその身体が弾ける。

(無為無心無己無我、立身流之形・ニ之太刀!)

刃が抜かれた音は、ほとんど聞こえなかった。
踏み込み、沈み、跳ぶ。
全ての所作が、一片の迷いもなく一つに繋がる。
それは福沢の人生に於いても二度と放てぬ程、完璧な斬撃であった。
故に途中で止めることは不可能であった。
朋友の表情を見た瞬間、福沢は真相と己の過ちを悟ったがそれは福沢の剣が親友を寸断した後の事であった。

(ポオの小冊子!?奪われていた?だが何故−−−)

見覚えのある革張りの薄冊子が、滑走路に落ちた。
ページが風にめくられ、視界に道場のような風景が映し出される。

「‥‥懐かしいな」

その思考を断ち切るように、福地の唇が動いた。

「ポオの空間小説だ」

「この風景で久闊を叙しながら儂を説得するつもりだったか」

その声は、肺に血が溜まっているのか、掠れていた。
ゴホッ、ゴホッと深く咳き込み、口元を赤く染めながらも、福地は語ることをやめようとはしなかった。
福沢が慌てて膝をつき、その身体を支える。

「もう喋るな」

だが福地は、かすかに首を横に振った。

「構わん、為すべきは皆為した」

福沢の手を、冷たい指が弱く握り返す。

「‥‥ああ、お前の勝ちだ。源一郎」

福沢の名を、まるで昔のように呼ぶ声に、福沢の肩が震える。

「本日付けで国連安保理決議二四一五が採択され、人類軍憲章の条項修正案が発効される」

福地の視線が、空に向く。
燃えるような夕暮れが、雲の向こうに滲んでいた。

「そこには今回のような事態を再び招かぬよう、各国の国軍に直轄指令可能な指揮系統を認める特例条文が追加される」

息が苦しそうだった。だが、その顔には後悔はない。



/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp