【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
「貴方が今、言いましたよ」
「とりあえず、僕を殺そうとした貴方を消します」
「いいね」
『空域クリア。機関砲スピンアップ。並走及び、カウンターメジャー異常なし」
ヘリのドアの隙間から血が一滴、二滴と落ちる。
「え‥‥」
ディアナが思わず声を出してしまう。
視線は血が垂れた床に釘付けになる。
「何だいドス君、祝杯の葡萄酒でも零したのかい?」
ゴーゴリが視線を辿って見てみると、フョードルが吸血種に鉄棒で刺されていた。
「残念だよ、もう少しで死ねたのに」
フョードルは自嘲するように口端を歪め、吐息を漏らす。
「でもね、君では私を殺せない」
背後から重い足音が近づく。
死んだ筈の太宰が出口から出てきた。
(太宰治‥‥やっぱり底が知れない男だ)
ディアナが太宰を見つめる。
息を潜めるように肩をすくめ、指先でそっと袖口を握りしめた。
「太宰君、何故‥‥」
フョードルが弱々しく声が聞こえる‥
「魔人、ドストエフスキー。万象を掌で操る君と違って、私の手札は不確定要素だらけだったよ」
「だが君にはひとつ弱点があった。君は『己で操れないもの』を信じない、仲間だ」
フョードルの目がかすかに揺れる。
「空港でブラムが異能を取り戻した。そのブラムと乱歩さんが交渉し、ヘリを運転する吸血種を操って貰った。事前に打ち合わせられる内容じゃない。だが乱歩さんならそうすると信じていた」
「ですが貴方は頭を打たれて‥‥」
太宰は額の包帯を指で叩いて、笑った。
「ああ、これ?実際痛かったよ、あの莫迦が加減を間違えるから」
「誰が莫迦だ!」
中也がカラコンを外しながら歩み寄る。
「ああ、成程‥‥」
「中也は最初から吸血種じゃあなかった」
「取れねぇ、被せるだけでいいってのに首領と美鈴が面白がって接着しちまったから」
中也は付け歯を乱暴に引っ張って、取ろうとする。