【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
出口からフョードルがゆっくりと姿を現して、コートの裾を払うようにして歩みを進める。
「ドストエフスキー選手っ!ゴォォォーーーーールッ!」
ゴーゴリの叫ぶ声に、フョードルは口元だけで小さく笑った。
「今!一着で栄光のゴールイン!」
付け足すようにディアナが言う。
「例のものは?」
フョードルが顎をしゃくると、隣のゴーゴリが片眉を上げ、わざとらしく肩をすくめる。
「これかい?」
ゴーゴリはケースをくるりと回して見せた後、スッと前にずらして差し出す。
「その前に訊ねていいかな?太宰君は暗号化した心拍を仲間に読み取らせていたが、君はどうやって外と通信した?」
「簡単な話です。これです」
「成程‥‥ムルソー警備に協力者。いや、従者がいたのか」
ゴーゴリが口元を覆い、含み笑いを漏らす。
「さぁ、君のものだ」
「確かに」
フョードルは目を細めてケースを受け取り、満足げに指を鳴らす。
「打たないの?」
ディアナが首をかしげ、わざと一歩踏み込む。
「ヘリの中で打ちますよ、そのくらいの時間はあります。腐っても欧州最高の監獄。脱獄に気付かれ、空域封鎖される前に離陸します」
フョードルは口角を上げ、背後に控えた吸血種に視線を送る。
「僕は怪我目で操縦桿が握れません。ヘリの操縦を頼みます」
吸血種が無言で一歩前に出て、静かにコクリと頷く。
「ドス君!シグマ君はどうした?」
ゴーゴリが目を細めると、フョードルは肩を軽くすくめる。
「勇敢でしたよ、もう二度と目覚める事はないでしょう」
「‥‥ドストエフスキーに逆らうものは悉皆、非業の死を遂げる‥‥か。それなら君自身はここを出たらどうする?」