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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜






「じゃあ、私は?」

「ん?」

「私は……何を求めてるんだろうね」

ゴーゴリは答えなかった。
ただ小さく笑うと、ディアナの頭をぽんと叩く。

「それは自分で決めるんだよ、人を眺める役か、踊る役か、全部選べばいい」

ディアナはゆっくりと目を閉じて、息を吸った。
遠くでまた、ムルソーの壁が崩れ落ちる重い音が響く。

(覚悟しないとね、ここで二人のうちどちらかが死ぬ、どっちに転んでも最後まで見届けよう)

それが最後に出来る親孝行。
最初で最後の親孝行かもしれないとディアナは思った。
胸の奥にずっと沈めていた小さな願い−−−『普通の娘でいたかった』なんて言葉を、もう一度だけ思い出して、すぐに打ち消した。

「親孝行なんて、らしくないか」

誰にともなく呟いて、ディアナはポケットの奥に忍ばせていた銀色の小さなお守りを指先で撫でた。
いつかフョードルが無造作に机の上に置いていた古い懐中時計の欠片。
動かないくせに、なぜか捨てられなかった。

(最後に動かすのは私でいい)

背後でゴーゴリがくすくす笑っているのがわかる。
彼には全部お見通しだ。
でもいい。
ここで誰が笑っても、泣いても、最後の幕は自分で閉じる。
遠く、崩壊しかけたムルソーの壁の向こうで、誰かの足音と鉄が擦れる音がした。
空は澄んでいて、月は無駄に綺麗で、夜明けまではまだ遠い。
ディアナは出口のドアを見つめる。
もう迷わない。
今はただ−−−見届けるだけだ。



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