【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第30章 Final Stage Ⅲ 〜宿命の斬光、桜は血に咲く〜
ゴーゴリとディアナは、吹きさらしのムルソーの外壁に寄りかかりながら、遠い爆音を耳にしていた。
「どっちが勝つと思う?」
ゴーゴリは横にいるディアナをちらりと見る。
ディアナは小さく息を吐いて、肩をすくめた。
「正直言って、分からない。太宰治はヘラヘラしてるけど頭のキレる人間。なんかダディと少し似てる」
「似てる?」
「私はダディの過去とかは知らないけどさ、なーんか、心の何処かで目的とは違う、『何か』を求めているような気がする」
ディアナは言いながら、冷たい外気を胸いっぱいに吸い込んだ。
湿った風が髪を揺らし、頬にかかる茶色の房をゴーゴリが無言で指先ですくってどかしてやる。
「『何か』とは?」
ゴーゴリは問いながらも、その答えを知っているような声だった。
その瞳は、冗談めかした笑いを含みつつ、どこか底なしだった。
「分かんないよ。分かんないから、余計に怖いのかもね」
ディアナは肩をすくめて、わざと軽く笑った。
その笑いは息に混じって空へ散った。
「何も知らないままの方が幸せだって事もある。ドス君も太宰君も、みんな頭が良すぎて、何かを知りすぎて、結局自分を食いつぶすんだ。僕には真似できないさ」
「それでいいの?ゴー君は、何も求めないの?」
ディアナの問いは真っすぐで、月光のように冷たく澄んでいた。
ゴーゴリは片眉を上げると、肩越しに彼女を見下ろす。
「僕は道化師さ。人が生きて、踊って、死ぬのを見て笑う役目。それ以上の『何か』なんていらない。だから面白いんだよ、ドス君も、太宰君も」
ゴーゴリは両手を大げさに広げ、まるで舞台の上で観客に語りかけるように太陽に向かって叫ぶ。