【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第4章 動き出す影
「またまだ謎があるねぇ」
香織を気遣ったのか、森は香織に部屋を戻るように促す。
自室に戻った香織はベットの上に座り、唯斗に話しかける。
「ねぇ、嫌じゃないの?」
「嫌って?」
「異能生命体になるの」
「嫌じゃないよ、もっと生きられることになるし」
「‥‥ごめん、私−−覚えてないの」
「あの時の香織は必死だったし、覚えていないのは多分、彼奴だと思う。あの人、暗示かけるの得意だったし」
(思い返すと、変だ)
唯斗の話に記憶がない。
和雄と何処に住んでいたのか、教会にお世話になった経緯も記憶にない。
まるで真っ黒なインクに塗りつぶされているように。
唯一覚えているのは燃え盛る炎の中で謝る和雄の姿だ。
「思い出さなきゃいけない。父さんに会うためにも」
心の何処かで真実から逃げていたのかもしれない。
でも、今は真実と向き合うべき時だ。
自分のことなのに分からないのはこれでもうお終い。
「どーするつもりさ?」
「連れて行ってほしいところがあるの、唯斗しか分からない場所だから」