【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第29章 Final Stage Ⅱ 信義にそむく遊戯
「この中から各々一つだけ持ち出しを許可する。いずれも勝敗を決定しうる強力な武器だ」
シグマは無線通信機を指先で弾いて二人に見せ、ディアナは開扉カードを胸元でひらひら揺らす。
「まず巡回警備員が使う、無線通信機。周波数ホッピング方式で盗聴不可能、だから警備の動きを読むにはこれに頼るしかない」
ディアナはカードを唇にあてて、わざと小首をかしげた。
「最高警備長級認可の開扉カード。唯一の出口、洋上ヘリポートへの扉はこれでしか開かない」
シグマは小さく肩をすくめて硬貨爆弾を太宰に向けて見せ、もう一つの衛星電話をフョードルに見せる。
「ご存知の通り、硬貨爆弾。火薬増量型、ここに侵入する時に使った残りだ。衛生通信電話機。電波の通じる第一層まで行けばこれで世界中の協力者に応援を要請出来る。ある意味で最強の武器だ」
「成程、勝負は既に−−−」
「始まっているという訳ですか」
「だがどちらが先に選ぶ?」
「それは勿論、ドス君からだ!親友だからね!」
「では、これを」
フョードルは一歩前に出てディアナの指先から開扉カードを取る。
「いいだろう」
この開扉カードは出口に至る為、勝利に絶対必要。
フョードルの行動は不可解で幽鬼めいているが、その実誰よりも合理的で冷徹だ。
「さぁ、太宰君は何を?」
太宰は肩を落としたように笑いながら、シグマが持つ衛生電話をわざわざ避けて、シグマを指さした。
「これがいいね」
「‥‥私?」
一瞬、シグマの眉がぴくりと動く。
「ハハハーハ!いいよ君、最高だ!」
ゴーゴリは肩を揺らして笑い、シグマは黙って額に手を当てた。