【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第29章 Final Stage Ⅱ 信義にそむく遊戯
「何故謝るんだい?これぞ、最高の好機、天の恵みだ」
太宰は笑いながら注射器を指で転がし、すぐ横でディアナが面白そうに髪の毛を指に巻きつけて見守る。
「確かに、ですが後三十分でチェスの相手を失うと、寂しくもありますね」
フョードルは小さく肩をすくめ、太宰を横目で見た。
「もう勝つ気かい?」
太宰は包帯をくるりと指に巻き付けて微笑む。
「それ以外に何の結末が?」
二人は視線を交わしたまま、笑いながら同時に自分の腕をまくる。
そして、ゆっくりと注射器を自分の血管に突き立てた。
これにシグマはドン引きした。
「これより、背神の遊戯、ゴーゴリ・ゲームを開始する」
ゴーゴリはステッキを高々と掲げ、二人に手を差し出す。
「さて!今更だが説明しよう!君達が先程収監されていたのは最下層。危険異能者収監のための異能空間、通称『無限賽室』。今いるのはその上、通常監房の地下第四層だ。それでも地上までの脱出には世界最高峰の警備機構が待ち構える」
ゴーゴリはステッキを掲げたまま、床に円を描くように歩き回る。
靴音が静かに反響し、空気を刺す。
「まず、各層の廊下は数十もの『セル』と呼ばれる区画で区切られ、通り抜けるには暗証番号が必要となる。隔壁の解錠番号は六時間ごとに変更され、入力を一度でも間違えば永遠に開かない。隔壁の厚さは扉も壁も驚異の120センチ!しかも耐異能性特殊金属で破壊は不可能」
「隔壁を抜けても更に厄介な『昇降装置』がある。上階層にはこの昇降装置で上るしかないが、動かすには証文・声紋・網膜・遺伝子認証がすべて必要だ。その認証信号は中央制御室に送られ、そして監視員が搭乗者を映像確認して、ようやく昇降装置が作動する。だから誤魔化しは不可能」