【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第29章 Final Stage Ⅱ 信義にそむく遊戯
私はシグマ、カジノの男。
私の出自は相当特殊な自覚があるがそんな私をして思わせる。
(この部屋でまともな人間は私だけか!?)
「この注射を打てば30分で死ぬのだね?」
太宰は袖口から注射器を取り出し、まるで玩具のように人差し指で軽く転がしながら、ゴーゴリに視線を送った。
「そう!全身から血を噴き、苦しみながらね!」
ゴーゴリはステッキを片手でくるくると回し、もう片方の手を広げて演説めかして笑う。
「芸術ですね」
フョードルは無表情でそう言うと、口元にだけ冷たい笑みを滲ませ、ゆっくりとシリンジを指で弾いた。
「でしょ〜〜!私が作ったんだ!」
ディアナは頭の後ろで手を組み、得意げに胸を張った。
(やっぱり狂ってる……)
シグマは心の中で小さく呻き、額に手を当てた。
「勝負は単純!このムルソーから先に脱獄した方が勝ち!君達二人にはその致死毒を注射してもらい、先に脱獄した方だけがこの解毒薬を得る」
ゴーゴリは黒い小瓶をステッキの先で持ち上げ、二人の前にぶら下げて見せる。
「解毒薬はひとつ、つまり−−−」
フョードルは指先で注射器を弄びながら太宰を見やり、無表情に口を開く。
「30分以内に僕と太宰君、どちらかが死ぬ」
「んー太宰君には申し訳ない話だ。本来私が殺したいのはドス君だけ、だがこうでもしないと彼は毒を呷らなくてね」
ゴーゴリはフョードルの肩に親しげに腕を回し、太宰に片目をつぶってみせる。