【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第29章 Final Stage Ⅱ 信義にそむく遊戯
「そろそろ『あれ』をやる頃かな?」
太宰が壁に片肩を預け、指先で包帯をくるくると弄びながら、意味ありげに口角を上げて言った。
「『あれ』とは?」
フョードルはわずかに首を傾げる。
「どちらかが死ぬ」
太宰は小さく息を吐き、肩をすくめて片手を広げて見せた。どこか楽しげな笑みが、その目の奥だけは笑っていない。
「それは‥‥素晴らしい案ですね」
フョードルは僅かに瞼を伏せて口元に笑みを浮かべる。
「だろう?地上は世界の終わりの大騒ぎなのに、我々二人だけ最後まで生き残ってたら滑稽だよ」
太宰は壁から背を離し、無造作に肩の埃を払うとフョードルに半歩だけ近づく。
「全く、同意見です。では‥‥そろそろ脱獄−−−」
フョードルは太宰の目をじっと見据えたまま、人差し指を唇に当てて小さく笑う。
シュン、と空気が吸い込まれるようにフョードルの姿が掻き消えた。
「‥‥ドストエフスキー?」
太宰はわずかに眉をひそめ、いなくなった空間に手を伸ばしかけて止める。
「‥‥流石にそれは、行動が早過ぎ−−−」
言葉の続きを言う間もなく、太宰の足元の床が鈍く軋み、唐突にぱっくりと裂けていく。
「あっ」
太宰はバランスを崩し、空を掴むように手を振り回す。