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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第29章 Final Stage Ⅱ 信義にそむく遊戯






一方、ムルソーでは侵入者が現れたと大騒ぎになっていた。
銃を構えた警備兵たちの前で、ディアナはくすっと笑うと、軽く髪をかき上げてからゆっくり指先を振る。
その途端、異能が発動し、兵の体はずるりと液状に崩れた。

「か弱い女の子相手によく銃が撃てるね〜」

指先についた液体を払うようにぱちんと指を鳴らし、ディアナは微笑む。

「ヒ、ヒィ!!」

尻もちをついて後ずさる警備兵に、ディアナは小首をかしげると、ゆっくり近づいた。
スカートの裾を摘んで崩れないようにしながらしゃがみ込み、目を合わせて小さく笑った。

「おにーさん、フョードル・ドストエフスキーってどこにいるのかな?」

「ば、化け物‥‥」

怯えきった兵の頬にそっと指を当てて、軽くなぞる。

「そうだよ、その化け物さんが君に聞いてるの?質問に答えてくれれば見逃してあげるよ」

「ち、ちか、そうに‥‥」

「そ、ありがとうね」

ディアナは兵の頬から指を離し、ゆっくりと立ち上がってスカートの埃を払う。
その瞬間、兵は慌てて立ち上がり、足をもつれさせながら走り去る。
ディアナは無表情のまま、スカートの裾を整え、背後を振り返ることなく指を軽く弾く。
2メートルほど離れたところで、兵の体は溶けるように液体となって床を濡らした。

「安心しちゃったんだね〜!確かに私は『見逃す』とは言ったけど『殺さない』とまでは言ってない。来世では言葉をちゃんと聞こうね」

ディアナは無邪気に肩をすくめ、くるりと踵を返す。
そのとき、背後から聞き覚えのある声が届いた。

「あれあれ〜そこにいるのはディアナちゃんではないか〜!」

ディアナは立ち去りかけた足を止め、振り返りざまに口元に指を当てて小さく笑った。



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