【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第28章 Final Stage Ⅰ 〜空港バトル!東雲姉妹VS条野〜
「『吸血種』は単なる下拵えの調味料だ。連中の真の狙いは『大指令』。封印された『三大厄災』のひとつ、大戦が生んだ忌まわしき精神支配の異能兵器だ」
「『大指令』とは何か?お前達、兵士が戦場で敵を一人殺すのに弾丸を平均で何発使うと思う?」
乱歩が唐突な質問を投げかける。
全員の視線が集中する。
「一人やっつけるなら五発とか十発?」
敦が手探りのように答える。
「いや、威嚇や牽制も含めて平均なら一弾倉かそれ以上、三十から六十発は必要ではないか?」
国木田が冷静に推測を口にする。
「‥‥多分もっと多い」
与謝野が眉を寄せて呟いた。
「五万だ」
乱歩が静かに言う。
場が一瞬静まり返る。
「実際の環太平洋国での戦争の数字だ。殆ど兵士は敵に向けて発砲すらしない。狙いを外して戦っている『ふり』をする。自分の弾が敵を殺すのを見たくないからだ。それが兵士、それが戦場だ」
敦の手が膝の上で震えている。
無意識に拳を握りしめる。
「たとえ戦場の最前線でも銃で人を撃って殺すという『当たり前』に殆どの人間は耐えられない。だが現場がそんな腰抜けじゃあ勝てる戦争も勝てない。対策として軍は『考えずに反射で撃つ』訓練を兵士に施した。それで命中率は向上したが今度は帰還兵の心理的外傷後ストレス障害が急増、自殺者まで続出した。要するに、戦場とは元々人間が居ていい場所じゃないんだ」
「……」
「さて、そうなってくると戦争から兵士を護る為の『人為的な』道具が欲しくなる。その発送で『大指令』は開発された」
乱歩の声はどこか冷ややかだ。
「そんなのどうやって‥‥」
敦の声は震えていた。
「乱歩、その先は私が説明する」
福沢が前へ出る。
視線はまっすぐ前を見据え、まるで決意を固めるように。
「『大指令』は私の異能に似た兵器だ。私の『人上人不造』と
同じく、己の部下にのみ効果を及ぼす。その効果は『部下が必ず命令通りに動く』通信機」
「部下が必ず‥‥命令通りに‥‥」
敦が呟くように反芻する。