【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第28章 Final Stage Ⅰ 〜空港バトル!東雲姉妹VS条野〜
「異能技師が造ったこの通信機は、前線の指揮官が使うことを想定されている。『大指令』を通して命じられた部下は身体が上官の一部のように動き、自動的に命令を遂行する。疑問も罪悪感もそこには無い」
福沢の語り口には悲哀すら混じっている。
「当然だ、『上官が引金の指を動かし、銃弾が敵を殺した』のだから。そこには己の責任も罪悪感も差し入れる余地は存在せぬ」
「それは兵士を罪の軛より解放する優しき兵器の筈だった」
窓の外の砂嵐を見つめながら、福沢はそっと目を細めた。
「話の流れで読めると思うがこの通信機は余りに危険過ぎる為に封印された。どう危険か分かるか?」
「軍事クーデターだ。現場ではなく、軍の最高司令官がこの『大指令』を使った場合、『己の部下』−−即ち国軍全体を一斉に操れる。国家転覆も朝飯前だ。その可能性に気付いた政府はこの兵器を封印した。開発者である異能技師は事故に見せかけて殺された」
香織の瞳が一瞬だけ鋭く揺れた。
「封印‥‥つまり、『破壊』はしなかったんですね?」
「すべきだった。今回のような世界的危機を想定したんだろう。それ自体は慧眼だ。だが『英雄』、福地がこの『大指令』を使用した場合、何が起こると思う?」
「え?えーと‥‥福地の部下は‥‥」
敦が口ごもりながらも答えを探ろうとする。
「そうか、何という事だ!」
国木田がハッとしたように顔を上げた。
「そうだ、福地の部下は『人類軍』。地球上の軍隊凡てを傘下に収める『人類軍』。その長である福地が『大指令』を使えば人類は一枚岩となり、吸血種に対抗出来る。だから国連は『大指令』を福地に託すしかない。何もかも福地の筋書き通り、これで世界の軍隊を一声で操れるようになる訳だ」
「ま‥‥つまり、『天人五衰』の目的は簡単な一言で説明がつく。あまりに陳腐で使い古された単語。幼稚に過ぎる為、誰も真顔で言わないその単語は−−−」
「『世界征服』」
部屋の空気が一瞬で変わった。
「今から二十時間後、福地が『大指令』を空港で受け取る。それさえ阻止すれば君達の勝ちだ。その為の作戦を今から説明する」