【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第28章 Final Stage Ⅰ 〜空港バトル!東雲姉妹VS条野〜
「『吸血種』となった軍隊は不気味に沈黙しているが残った国の政府は大わらわ、まぁ当然だな。自分達の軍にどれくらい『吸血種』が潜んでいるか想像もつかないんだから」
「その『吸血種』ってのは何なんです?」
敦が眉をひそめて問いかける。
声の奥には焦りと恐怖がにじんでいる。
「『不死公主』ブラム・ストーカーの異能だ」
乱歩は背もたれに深くもたれながら指を一本立てて言う。
「ブラムは噛んだ人間を己の配下『吸血種』に変えて操ることが出来る。噛まれた人間は更に他人へと感染を広げる。つまり−−」
「世界中に敵が鼠算式に広がっていく!」
敦の言葉が自然と口から飛び出した。
顔には理解と恐怖が交錯していた。
「ブラムは嘗て存在した『人類を滅ぼす十の厄災』の一柱。何年も前、英雄・福地桜痴に討たれ、『聖剣』にて封印された。だが現状を鑑みるにあれも計画の下準備であったとしか‥‥」
福沢が腕を組んだまま、感情を抑えた低い声で告げる。
その目には複雑な想いが浮かぶ。
香織が一瞬だけ福沢の横顔を見つめ、声には出さずに何かを察する。
福沢は黒幕である福地と幼馴染。
一体どんな心境で会議に臨んでいるのだろうか。
「まぁ、そんな訳で各国首脳陣胃痛で夜も寝れない筈だ。何しろ『吸血種』は容易に組織の中にまぎれ込む。各国の軍では誰が『吸血種』か分からず、疑心暗鬼の同士討ちまで始まっているらしい。一方の『吸血種』はブラムの支配の下一つの生物の如く作戦行動が可能。全く勝負にならない」
机に置かれた地図を指でなぞりながら、国木田が静かに言い添える。
「そうやって世界を混乱させて支配するのが敵の目的なんでしょうか?」
敦が不安げに問いかける。
「いいや、流石にそれは無理だ」
乱歩が指を立てて否定する。
椅子をくるくる回しながら話を続けた。
「何しろこの先には異能戦争屋の総本山、欧州列強が控えている。特に英国・独国・仏国が物量戦に出れば半年程度で平和が戻るだろう。無論、それまでに幾十もの国が滅ぶがな」
「じゃあ、敵の目的は−−」
敦が口を開きかけると、乱歩が指で『待て』の仕草をする。
「別にある」
乱歩の声がわずかに低くなった。