【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜
香織の姿が見えなくなり、どうやら元の世界に帰れたようだ。
太宰の隣でアナザー香織は言葉を零す。
「行っちゃたね」
(思うと私の願いを叶えるために別世界から来てくれたのかな)
諦めていたアナザー香織は心の何処かで太宰を救いたいと思っていたのかもしれない。
香織に会わなければここまで来れなかった。
「ねぇ、実際のところ私の異能は生死を操る異能じゃない気がする」
異能が使えたのはいいが聞かされていた異能とは違うことにアナザー香織は気付いた。
「おや、鋭いね」
「治君はさっき、別世界の私を元の世界に返すには私の異能で出来るって言っていた。その時点で生死を操ることとは違う」
「君の言う通りだ。生死を操るなんてことは出来ない、もしそうならば私は君の異能を使っていただろう」
「それを踏まえた上で治君、本当にこれでいいの?本来の自分の居場所を捨ててまでここまで来たのは分かる」
「何が言いたいのだい?」
「私にこの世界を任せて、あっちに戻る気はないかってこと。私が『本』の守護者でさっきみたいに異能が使えるのならありだと思う。人数制限に関しては私の方で変えれる気がする」
このまま太宰がこの世界に留まれば向こうの香織が寂しい思いをするだろう。
しかし、行き来すれば誰も寂しい思いはしなくて済むとアナザー香織は思った。