【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第4章 動き出す影
「話は聞いたよ、大変だったね」
マフィアの拠点に着いた後に、自室に戻るのかと思っていたが通されたのは首領の執務室。
森の口振りからすると、太宰から聞いたのだろう。
「君が唯斗君だね」
「どーも」
にこっと森が唯斗に笑みを向けると、唯斗は返事をする。
「さて、こちらも亜鬼薬について分かったことがあってね」
「亜鬼薬‥‥」
和雄の顔が頭から離れられない。
「亜鬼薬に使われている成分が誰かの血だったのは伝えただろう?その成分である血の持ち主が分かったんだ」
「持ち主は−−君だ」
森の視線が一人に向けられる。
「えっ‥‥」
香織は思わず隣にいる唯斗に目を向ける。
一緒にいる太宰と中也驚いていなかった。
「ふーん、根拠は?」
試すような目を唯斗は森に向ける。
「血の持ち主をくまなく調べた結果、その持ち主は随分前−−80年前に死んでいたのだよ」
「待ってください!おかしくないですか?仮に唯斗の血が亜鬼薬に使われてたとしても、今は骨になって死んだ人の血なんて分からないですよね?」
「それがね、見つかったのだよ。柳瀬和雄が関わった研究の書類が」
「研究の書類?」
「しかも亜鬼薬の製造について書かれたものだ。そこには"初代ポートマフィアの首領”の血が使われていた」
「初代ポートマフィアの首領?」
森で何代目か分からないがポートマフィアは80年前から組織化したのだろう。
森の代わりに太宰が香織に説明する。
「初代ポートマフィアは歴代の中でもずば抜けて残酷で残虐だと噂されていた。漆黒に染まる黒髪に燃える紅の瞳、彼は一日で2000人を殺した真の死神とも呼ばれていたよ」
「それに、彼の異能は影を支配する。香織君の話とそこにいる唯斗君の容姿‥‥あまりにも似ているのだよ」
「−−ま、根本的な理由だね。でも、キミ達。何でボクがここにいるのかまだ分からないじゃない?ここから先はボクから話そう」
御伽噺でもするかのように唯斗は語り始めた。