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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜






「分からぬ‥‥貴様の話が仮に本当だとして、それが何故、僕から妹を奪うことに繋がる?全く以て意味不明だ」

「君たち二人の力が必要だからだ。君たち二人の異能が合流した時に起こる特異点、そして魂の合流が生み出す、力を超えた何かが‥‥そのために一度、君達を戦わせる必要があった。死の淵の手前に立って、相手が何者なのか理解させる必要が」

太宰は歩き、ビルの縁まで辿り着いた。
縁には落下防止の柵も壁もない。
落ちれば地上まで遮るものは何もない。

「太宰さん」

敦が震える声で言う。

「そこは危険です。こちらに戻って下さい」

「ひとつ忠告しよう。今話した内容は、誰にも話してはならない。知るのは君たち二人だけだ。三人以上の人間が同時に知ると、世界が不安定化し、『本』を使うまでもなく世界が消滅する可能性が高くなる。だから‥‥任せたよ」

太宰は一歩下がった。
踵が縁を超えて、空へとはみ出す。

「三人以上って‥‥」

敦は頭の中で人数を数えた後、はっとして太宰を見た。

「太宰さん、待って下さい、まさかあなたは」

「ついに来たのだね、第五段階‥‥計画の最終段階が。何とも不思議な気分がする。故郷に帰る前の日のような気分だ」

太宰は背中から風を浴び、ゆったりと微笑んでいる。

「黒衣の男よ、ひとつ教えろ。何故そうまでする?何故この世界の消滅の阻止をするのに、そこまで執着する?」

「そうだね‥‥確かに私は、世界にそれほど関心がある訳でもない。消滅しようが知ったことじゃあない。他の可能世界の私なら、きっとそう言っただろう。でもね、ここは彼が生きて、小説を書いている唯一の世界だ。そんな世界を、消させる訳にはいかないよ」

太宰は目を閉じて、懐かしそうな笑みを浮かべた。
風が招くように強く吹いた。
太宰の身体が後ろに傾く。

「ああ、ああ、ああ‥‥ついにここまで来た。待ちに待った瞬間だ。楽しみだ、本当に楽しみだ‥‥でもね、心残りもある。君がいずれ完成させるその小説を、読めないこと。今はそれだけが、少し悔しい」

そして太宰が身体の力を抜きかけた時、ここにはいない筈の声が聞こえてた。

「治君!!」






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