【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜
「一般的な書籍の呼称じゃあない。世界で唯一無二の『本』。書いた内容が現実になるとされる。白紙の文学書だ」
「書いたことが現実に?」
「ああ。だが書いたことが現実になると言っても、厳密な意味では違う。『本』はこの世の根源に近い存在。その中には、無数のありうる可能性世界、あらゆる選択と条件変化によって無限分岐した世界の可能性すべてが、折り畳まれて内在しているんだ。そして『本』の頁に何かが書き込まれた瞬間、その内容に応じた世界が『呼び出される』。本の中の可能世界と現実世界が入れ替わるんだ」
敦と芥川は突拍子な話に絶句している。
突然告げられても理解が追いつかない。
「つまり『世界』とは、本の外に一つだけ存在する物質世界---『本の外の世界』と、そして本の中に折り畳まれた無数の可能世界、即ち『本の中の世界』。この無数個と一個のことを指す。そしてこの世界は、可能世界。つまり『本」の中に無数にある世界の一つに過ぎない」
「とは言え、現実は現実。この世界も『外』と同じだけの強度を持っている。その証拠に、この世界にも世界の根源近縁体である『本』は存在する。もっとも、こちらの世界の『本』は謂わば排水溝だ。外の世界の呼び出し命令に応じ、本はこの世界全体を書き換えたり、廃滅させたりする。そしてこれから間もなく、強大な幾つもの海外組織が、『本』を狙ってこの横浜に侵攻を始める」
「何故分かる?」
「分かるさ、何故なら私は異能無効化の能力者だ。そしてその特性を利用して特異点を発生させ、世界の分断を強制接続させた。そして『本』の外の自分‥‥つまり本来の自分記憶を読み取ることに成功したのだから」
「な」
記憶を受け取っている?もうひとりの自分から?
非現実的な話にまたもや頭が追いつかない。
「これから組合、鼠、天人五衰、それ以外の強大な組織が『本』を求めて押し寄せる。君たちはその敵をすべて排除し、『本』を守らなくてはならない。連中が何かを書き込めば、この世界は消滅し、上書きされてしまう」