【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜
「無数にある世界?」
「聞いたことある?『白紙の文学書』。ここは『本』で作られた世界、見た時には耳を疑ったけどあんな状況で治君が嘘をつくとは思えない。そして、三人以上が世界の真実を知れば世界は崩壊する」
(『白紙の文学書』……組合やフェージャが狙っているものだ。太宰君はそれを使って友人が生きている世界を作った)
「だから太宰君は……」
仕方ないことだと諦めた顔をして話している彼女に香織は引っかかっていたものがこの時分かった。
「太宰君が幹部だった頃に他組織から守るために保護したって言ってたけど、その組織は壊滅されているよね?あなたがここにいるのは何か理由が---自分の意思でここにいる。そうなんでしょ?」
あの太宰が脅威になる組織を見逃す筈がない。
大きな損害を受ける前に潰すような人だと香織は知っている。
「……流石、私のことをよく分かってる」
観念したのか、アナザー香織が話し始める。
「そうだよ、私の意思でここに留まった。でももう、止められないところまで来てる」
「そんなのやってみないと分からない、最初から諦めていたら何も変わらない。太宰君が死んでもいいの?」
涙目になりながらアナザー香織は自分の本音を口に出す。
「死んで欲しくないに決まってる!!私は助けたいよ!!でも……でも、あの人は友人が生きているこの世界を守るために死ぬ、彼の小説を読みたいという淡い願いを抱いきながら……私は治君の望みを奪いたくない!望みがなくなってしまえばそれは死と同等」
友人というのは『共食い』解決の際に太宰が船上で話してくれた人のことだろう。
マフィアを抜けるきっかけを作った織田作という人物はこの世界で生きている。
太宰は友人のために死ぬつもりなのだ。
「それなら別の方法を考えればいい、後悔をしない選択をしろとまでは言わない。死ぬ以外の方法はきっとある。それがハッピーエンドへの道のりだと思うよ」
「ハッピーエンドへの道のりか……そうだよね、明日、治君を止める。手伝ってくれる?」
吹っ切れた様子のアナザー香織が香織に聞く。
香織はもちろんと言わんばかりに頷いた。