【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜
「いたた‥‥」
身体を起こして前を見ると香織は困惑する。
なんと目の前にいるのは香織そっくりの人物だった。
「「えぇーー!?」」
二人の驚いた声が部屋中に響く。
「あなた誰?一体どうやってここに‥‥」
ワンピースを着た別の香織−−仮に『アナザー香織』と表現しよう。
彼女は状況を整理しようと香織に聞く。
「えーと、私は如月香織。突然光に包まれて気付いたらここに‥‥」
「え、私も如月香織なんだけど」
「何がどうなっているの?」
「あなたの言っていることが正しいなら私達は如月香織。それじゃあこうしよう、知っていることを出し合う。同じ人間なら分かるでしょ?」
「確かに、そうだね」
アナザー香織の提案に香織は頷いて賛成する。
「まずは‥‥マフィアの首領は誰?」
「首領は森さんでしょ」
「違うよ、治君だよ」
初っ端から話が噛み合わない。
先行きが不安になってくる。
「あなたの言う森さんは森鴎外でしょ?四年前に死んだよ、その人」
「森さんが死んだ?じゃあ治君って言うのは−−」
「太宰治。森さんの後に首領になったんだよ」
「太宰君が?」
思わず耳を疑ってしまう。
あの太宰がマフィアの首領なんて務まるだろうか。
困惑する香織を察して、アナザー香織が説明する。
「まずここはポートマフィアの建物。私は元々教会に住んでいたんだけどマフィアと対立している組織に狙われたの、私の異能目当てで……そんな時に助けてくれたのが幹部だった治君、私は保護されて今こうしているって感じ」
「え……」
何もかも違う。
確かに太宰は幹部だったがマフィアを抜けている。
しかも香織である自分は対立組織に狙われているかもしれないが直接襲われていない。
マフィアに身を置くことになったのも『亜鬼薬事件』に巻き込まれたからだ。