【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第27章 𝕃𝕠𝕤𝕥 𝕋𝕚𝕞𝕖 〜刹那の奇跡と儚い懐慕〜
(ドアから出るしかなさそう)
ドア越しに耳を澄ましせて、廊下の様子を伺う。
誰かが廊下を歩いている足音がない。
逃げるなら今だ。
ドアノブを回してドアを半開きにしてから廊下の様子を見る。
近くに監視カメラがなく、意外とセキュリティが緩いのかもしれない。
廊下に出たのはいいがどうやって外に出るのかさっぱり分からない。
(やっば、詰んだかも)
部屋に引き換えそうとするが事態が急変する。
「おや、何故貴女がここにいるのです?」
勢いよく振り返るとそこには条野の姿が見える。
「あ……ああ」
「嫌な予感がして来てみれば……どういうつもりです?」
香織は恐怖心のせいで固まって動けない。
脳が危険信号を出している。
足が動かない。
「黙っていないで何か言ったらどうですか?」
条野は溜息をして、香織のほうに手を伸ばす。
香織は掠れた声で抵抗する。
「い、いや……」
その瞬間、目が眩む程の光が香織の身体を包み込む。
(なにこれ!?)
「な!?」
触れようとする条野の腕を香織から守るかのように弾いた。
やがて、香織の姿が条野の前から消えた。
「一体何処へ……隊長に報告しないと」
条野は早足で福地がいる部屋に向かった。
◆ ◆ ◆
ポートマフィア本部のビル内にある一部屋に香織の姿が見える。
普段の和服姿とは違い、純白のワンピースを身に着けている。
ソファに座って、紅茶を一口飲む。
「……暇だな」
ボソリと呟いた言葉には誰かを待っている風に捉えられる。
「街にでも行こうかな」
香織は立ち上がり、着替えようとクローゼットに足を運んで扉を開く。
開けた瞬間、何かがクローゼットの中から飛び出して、香織にぶつかる。
香織は起き上がり、ぶつかった相手に視線を向けると息を呑む。
クローゼットの中に出て来たのは自分だったからだ。