【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第26章 猟犬との逃走劇の末
てっきり牢屋にぶち込まれると思っていたがそんな気配を感じない。
廊下を歩いている条野の横顔をちらりと見る。
「あ、あの〜こういうのって拷問とかされるんじゃ‥‥」
「してほしいのですか?」
香織は首を横に振って否定する。
「私を連れてきた理由は何?」
「先程言ったでしょう。貴女を保護するためです」
『保護』の言葉に香織は首を傾げる。
条野はそんな香織を見て、溜息をしてから説明する。
「貴女の異能は『生と死』を操る。危険な異能なんです。探偵社は貴女の異能を使ってテロを起こそうと企んでいる可能性があると隊長が推測して、今に至る訳です」
「違う!!探偵社はそんなことしない!」
条野の前に出て、香織はきっぱり否定する。
「可哀想に、貴女は自分が騙されていると思っていない。その純粋な心が汚されると考えてしまうとはらわたが煮えくり返そうです」
香織は一旦、下に俯いている。
条野が声をかけようとするが香織は声を抑えて笑っていた。
「‥‥私が純粋な心?条野君は何も分かってないね」
香織は顔を上げて条野を見る。
「私はね、大切な人を殺した。直接手を下してないけど実質、私に殺されたようなもの」
「‥‥嘘では、無いですね」
条野は心拍音を聞いて嘘を疑ったが本当のことだと感じた。
「条野君が思っている程、私は純粋じゃあない。そもそもこの世の中に純粋な心を持つ人なんていない。みんな何処かしら汚れてる。裏の世界で生きていた条野君なら分かるでしょ?」
こんな香織を条野は知らない。
いつもニコニコ笑っていて誰かの為に自分を犠牲にする彼女に汚れた一面が無いと思っていた。
いつから彼女は変わったのだろうか。
母親が目の前で殺された時?養父を恨んだ時?
それは彼女自身しか分からない。
「確かに貴女の言う通りかもしれませんね」
歩いていた条野の足が部屋の前で止まる。
ドアを開けて香織を中に入れた。
「貴女には今日からここで過ごしてもらいます。部屋にあるものは自由に使って構いません」
立ち去ろうと条野はドアを横切る際に言葉を付け足した。
「ああ、言い忘れていましたが逃げ出そうなどと余計なこと考えないでくださいね、それでは」