【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第26章 猟犬との逃走劇の末
(最悪だ、最悪の展開だ)
一般人相手なら何とかなるが猟犬となるとTheENDに近い。
まともに戦ってたら隙を作るくらいは出来るだろう。
だがそれは異能を持っている場合に限る。
まだ異能が使えない香織に残された選択肢は一つ。
(逃げるしかない!!)
必死に足を動かし、ドアを開けてから廊下に出る。
香織は無我夢中で廊下を走る。
(偽名を使って泊まっているのに何でバレた?)
一週間はしのげると思い込んでいた香織は条野の登場に困惑する。
階段で1フロア降りたところで香織は目を見開く。
「おや?随分と遅かったですね」
先回りされたのだ。
余裕な条野とは裏腹に香織は大パニックになる。
「ひ、ひぃ〜〜!!」
すぐに引き返してまた廊下を走る。
すれ違う宿泊客が香織を見るが気にしない。
(何なの!!これじゃあ逃○中じゃん!!)
しかも命が懸かっている鬼ごっこじみた逃走。
パニックになりながらも意外にも冷静かもしれない。
(バカ正直に正面からは逃げられない!!)
先程のように先回りされている可能性が高い。
(女子トイレに逃げ込む?いや、条野君ならズカズカと入ってきそう。常識から少し離れたところあるし)
じっくりと考える時間がない。
視界の隅に一つの窓が見え、香織は立ち止まる。
(今いる階は2階、ここから飛び降りたら死にはしない‥‥でも)
上手く着地出来れば無傷か軽症で済むだろう。
だが失敗すれば骨折する。
(もういい!!どうとなれ!)
香織は窓を開けて飛び降りる。
反射的に目を瞑ってしまい、視界には何も見えない。
落ちる感覚を身体で感じる。
ドサリと誰かが香織の身体に触れているのを感じた。
「全く、貴女はお転婆ですね」
「‥‥へ?」
瞼を開けると視界一面に条野の顔が近距離で映る。
更に条野にお姫様抱っこされていることに気付いた。
「あわ、わ、わ」
「ふふ、貴女の心音‥‥太鼓みたいですね。久しぶりにその音を聞きました」
「アンビリ〜バボ〜」
(お、終わった~)