【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第25章 悲劇なる日曜日
「切れた……」
現場にいる国木田達との通信が途切れた。
突入までの様子は無線を通じて分かっていたが銃声がなく途切れたことに違和感を持つ。
明らかに何かがあったと判断するのが筋だろう。
(私も現場に行く?……ううん、国木田さんが残れって言ってたんだからもしもの時に私がいなくちゃ)
軍警に連絡したいがそれだと人質の命を失う恐れがある。
香織以外に社員が出払っているため相談が出来ない。
「香織」
入り口のドア付近から福沢の声が聞こえる。
パソコンから顔を上げて姿を見ると人がいる事実に安心感が湧き上がる。
福沢は香織に近付いて、口を開く。
「今すぐここから離れろ」
「何でですか!まだ国木田さん達が……」
「探偵社は陥れられた。テロリストに仕立てられ、もうすぐ軍警がここに来る」
「そんな!!」
香織は黙り込む。
これが狙いなのだとこの時気づいた。
そして乱歩が福沢に反論したのもこうなると分かっていたからだろう。
ぎゅっと香織は手を強く握る。
「国木田達が心配か?」
「はい」
弱く掠れた声で香織は福沢の問いに答えた。
あまりにも情けない声をしている自分に香織は少し驚く。
「みんな、私の大切な人達です。優しくて、たくさん助けてくれました。そんな人達が危険に晒されているのなら今度は私が助けたいです」
探偵社が簡単にやられる組織じゃないのは香織だって分かる。
今は信じるしかない。
(私ができることをやろう)
覚悟が決まり、福沢を見上げる。
「社長、私は探偵社の無実を証明します」
これが後に『天人五衰』事件と呼ばれる出来事の始まりである。
この先に待ち受ける試練と残酷な事実に翻弄されることに香織は知る由もなかった。