【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第25章 悲劇なる日曜日
香織がコーヒーを飲んでいる時、太宰の姿は競馬場にいた。
走っている馬を見ていた太宰を白髪の男性が声をかける。
「一着は何番の馬でした?」
「九番だよ」
「どうも」
男性は太宰の隣に並んで、一緒に見るようだ。
「貴方、当てましたね?」
「おや、分かるかい?」
「発汗、体温、筋肉の音、光を失って却って見えるモノが増えましたよ」
男性には目が見えいことが分かる。
その代わりに聴力などが優れているのだろう。
「貴方の明日の運命も当てられます」
「本当に?」
「えぇ、『貴方に明日は来ません』」
男性は太宰の手首に手錠をかける。
逃げられないように男性自身の手首にも手錠がはめられているのが見える。
「元マフィア幹部、太宰治。共謀殺人138件、恐喝312件、詐欺その他625件の犯罪容疑で逮捕する」
「やられたね、追跡には気付いていたがあの『猟犬』部隊が相手では人混みに逃げ込んでも無駄か」
香織をカフェに置いてきたのは尾行されているのに気づいたからだ。
カフェから離れても気配を感じたため狙いは太宰だと確信した。
「群集に逃げ込めば群集ごと消すだけです。ふふ、聞こえます。貴方の憤り、孰れそれが罰への恐怖へと落ちる……その瞬間が待ち遠しい」
「君とは気が合いそうだね……1つ教えてくれ、何故今頃私を逮捕しに来た?」
「奇妙なことに急に証拠が復活したのです。指紋、録音、写真……まるで消されていた照明のスイッチが再び灯ったように」
「香織さんをカフェに置いてきたようですがそれは無駄です。私としては一緒に居てくれれば手間をかけずに済んだのですがね」
どうやら『猟犬』は太宰だけではなく、香織も狙っている風に思える。
「彼女は犯罪に手を染めていない。私だけを捕まえればいいだろう?」
「いいえ、捕まえるのではなく、保護です」
「『保護』ねぇ、本当にそれだけならいいけど」