【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第25章 悲劇なる日曜日
「成る程、『天人五衰』−−犯人からの言伝メッセエジか」
「『天人五衰』?」
またもや聞き覚えの無い単語に乱歩以外の全員が首を傾げる。
ガチャリとドアが開かれ、会議室に福沢が入って来る。
「『天人五衰』とは、六道輪廻の最高位たる『天人』が死の間際に顕す、五つの兆候の事だ」
「社長」
「『衣裳垢膩』、衣服に垢と脂が染み出す。『頭上華萎』、頭部の華鬘が萎れ腐る。『身体臭穢』、身体が汚れ臭い出す。『液下汗出』、腋の下から汗が流れる」
「じゃあこれは‥‥『見立て』型の連続猟奇殺人‥‥」
「待って下さい!殺人は四件なのに−−」
何かに気付いた敦が口を出した。
国木田は敦の言いたいことが分かっているようでコクリと頷く。
「その通りだ。五つの衰の内、『不楽本座』が未だ無い」
「それじゃあ殺人はもう一件起きるってことに−−」
「起きぬ、何故なら我々が阻止するからだ。一同全力を挙げ、凶賊の企みを阻止せよ」
「反対だね」
乱歩が反対するならばそれなりの理由がある筈だ。
会議の決定事項に無闇に反対するような人じゃないのは探偵社員の誰もが分かる。
「乱歩‥‥理由は?」
『もうじき探偵社に大きな仕事が来るが絶対に受けるな!受ければ探偵社は滅ぶ!』
友人の言葉を乱歩は脳に浮かぶ。
探偵社が滅ばない道を選ぶことは簡単なことだ。
依頼を受けなければいいだけ、友人の言っていた大きな仕事というのは今起きている『殺人結社』のことだ。
「この仕事は断る」
「‥‥乱歩、社長室の祓魔梓弓章は見たか。我々民護の者にとって百年に一度の名誉だ」
「弓を貰ったから仕事を受けろと?」
「否、あれはな‥‥唯の木片だ。勲章も賞賛も我等には細かき霧雨と同じ。仮令、我等が栄誉無き地下のコソ泥でもこの殺人を止める為に命を懸ける」
「なら勝手にすればいい!」
「乱歩さん!」
乱歩が出て行き、国木田が追おうとするが福沢に止められた。
「追うな、国木田。探偵社は殺人犯を追う。そして乱歩は『探偵社滅亡』の真相を追う。同時調査‥‥それが最適と乱歩も分かっている」