【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第22章 太宰、りんごの君を思ふ
涼しい風が頬を撫でる感覚がして、目を覚める。
(あれ、この感触は何?)
誰かに膝枕されている感覚がする。
瞼を上げるとその人物がはっきりと見えた。
「太宰君‥‥」
日陰にいるせいか太宰の顔がよく見える。
「やぁ、おはよう」
(帰ってきたんだ、私)
あれが夢なのか現実なのか分からない。
今は元の場所に戻れたことを喜ぼう。
「お、おはよう」
何事もなかったかのように平然としている太宰に香織はぎこちなく返事をする。
「気持ち良さそうに寝てたけどいい夢でも見れたかい?」
「‥‥太宰君に似た子が出て来て、不思議な夢だったかな」
「どんな子だったんだい?」
「名前は確か−−『津島修治』君、私にりんごをくれた男の子だった」
「っ!!」
太宰はこれ以上聞こうとしなかった。
そんな太宰の頬をそっと香織の手が添えられる。
「太宰君、ごめんね。私は太宰君の優しさから逃げてた。自分が憎くて、嫌になって‥‥八つ当たりしてた。私、太宰君の優しさに甘えることにした。だから私が人を殺しそうな時は止めて」
「ああ、分かった」
「ありがとう」
頬を添えている香織の手を太宰が上から自身の手を重ねる。
「‥‥私はね、世界が香織の敵になっても私だけが最後の味方になって、守るさ」
「元マフィアの幹部様が私の味方かぁ、頼もしいね」
香織が笑みを零すと太宰もそれに釣られて笑みを浮かべる。
(太宰君がいるから心強い)
そんなことを香織は心の中で呟いていた。