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【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜

第22章 太宰、りんごの君を思ふ





「私、行かなきゃ」

黒い雲を見つめて、香織はボソリと呟く。
その瞳は決意を宿していた。

「行くって何処に?」

「私の居場所に」

座っていた腰を上げて香織は津島の方に振り返りながら言う。

「また会える?」

「会えるよ、生きていれば」

何気ない言葉だが津島には深い意味を感じた。

「最後にお姉さんの名前を教えて」

「教えなーい」

口元に自身の人差し指を持っていき、ウィンクをして香織は言った。
香織からすれば大人の余裕というやつを津島の前で表したかっただけだった。

「知りたかったら私を見つけて」

素直に教えてくれると思っていた津島は豆鉄砲をを食ったような顔をする。

「じゃあね、『津島君』!」

香織はニコッと満面な笑みを津島に向けてからりんご畑の真ん中に行く。
大雨が降り出し、雷鳴が聞こえて来る。
香織は全身がビシャ濡れになってもその場から動く気配がない。

(お願いだから私の近くに落ちて)

祈るような気持ちで香織は空を見上げる。
香織の願いに天が答えたのか空に稲妻が走り、大きな音がした。
その様子を遠くから見ていた津島は香織が風邪を引くだろうと思い、雨宿りをさせようと足を一歩踏み出す。
ドカーンとした音が近くに聞こえ、香織と津島が咄嗟に目を瞑る。

「……は?」

津島が目を開けると香織の姿が見当たらなかった。
通り雨だったのか雨がすぐに止んだ。




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