【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第22章 太宰、りんごの君を思ふ
いつもの日常が戻って来た。
あの豪華客船の一件があってから気まずいと思っていた香織は太宰とはなるべく会わないようにした。
しかし武装探偵社の狭い空間で会わないとなるのは難しい。
仕事を休むわけにもいかず、二人きりにならないようにしようと思いながら香織は重い気持ちのまま探偵社のドアを開ける。
「ようやく来たか、如月」
待ってましたと言わんばかりの様子をした国木田が香織に近付く。
「国木田さん?何か問題でもありましたか?」
「大有りだ。お前、太宰と何かあっただろ?」
国木田の確信めいた問いに香織はぎくりとする。
「ええと……何かあったかと聞かれると……あったと思われます」
目を泳がせて香織は答える。
太宰の様子がおかしいのならば十中八九あの豪華客船での出来事が絡んでいるに違いない。
「身に覚えがあるようなら早めに解決しろ、いいな?」
国木田から一枚の紙切れを渡される。
香織は首を傾げながらその紙に目を通す。
「『探さないでください』?」
「珍しく早めに出勤してきたと思いきや急にふらりと何処かに行った。この紙は太宰の机の上にあったものだ」
香織は国木田の話を聞いて意図的なものを感じる。
太宰のことだ。
面と向かって香織と話すために仕組んだのだろう。
(でもこのままってわけにはいかないよね、原因作ったの私だし)
自分で撒いた種なのにこのまま放置するの人としてどうかしてる。
香織は国木田に断りを入れてから外に出た。
こうして、太宰探しの旅が始まる。
この時の香織は美女に心中を申し込んでいるか、川に流されているのだろうと思っていた。
しかし、それらしき場所を探しても太宰の姿が見当たらない。