【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第19章 過ぎ去った時代
女性のローブを脱ぎ取り、ハンガーにかける。
露わになった女性の姿は腰まで伸びた癖っ毛のない黒髪をしていた。
フョードルはその黒髪に吸い込まれるように見つめてしまう。
「あれ?私……」
女性が寝ている隣でフョードルは椅子に座り、足を組みながら本を読んでいた。
彼女が目を覚めるのを確認するとパタンと本を閉じる。
困惑している女性を見た彼は安心させるようににこりと笑みを向ける。
「おはようございます。気持ち良さそうに寝ていましたよ」
「……」
女性がフョードルの姿を見ると身体を震わせて、一体誰だこの人はという顔をしている。
「えっ……」
挙げ句の果てには誘拐したのかと失礼なことを思っていそうな顔までしている。
「言っておきますが僕は路地裏で呑気に寝ている貴女を親切心からここまで運んであげたのです」
「そ、そうなのですね!ありがとうございます」
フョードルの言葉を聞いた女性は自分が置かれている状況に納得をして、フョードルにお礼を言う。
「貴女見ない顔ですね、名前は?」
「私は---」
名前を言おうとしたが言葉を詰まらせる。
「……分からない」
名前を思い出せないのはおそらく記憶喪失になっているのだろうとフョードルは理解した。
記憶喪失になる程の身に女性を襲ったのかもしれないと思いながら何か面倒ごとに首を突っ込んでいるとも思ってしまう。