【第一章】世界の支配者篇 〜定められしサークリファイス〜
第18章 魔人の策略
「すみません、用事を思い出しました。僕はこれで」
「あっ、はい」
フョードルは机に2000円札を置いて、去ってしまう。
(太宰君、何であんなに慌ててたんだろ)
そう思いながらアイスティーを飲んでいると息を切らした太宰がカフェに入って来る。
香織の姿を見つけた太宰はテーブルに近付く。
「香織!大丈夫だったかい!?」
「だ、大丈夫だけど」
真剣に聞いてくる太宰に怯みながら答える。
「彼奴には何もされてないかい!?」
「何もって‥‥お茶してただけだよ?」
香織はとりあえず太宰に座るように促す。
「太宰君、どうしたの?変だよ」
目の前にいる太宰はいつもの余裕そんな雰囲気とは違い、焦っているように見える。
「変なのは君だ。彼奴が誰なのか分かっているのかい?」
「ただの一般人じゃないの?」
香織の問に太宰は横に首を振る。
「違う。彼奴は、世界中で活動する盗賊団の頭目−−フョードル・ドストエフスキーだ」
太宰の言葉に開いた口が塞がらない。
「え、盗賊団?頭目?」
(頭目ってことはボス的なやつだよね?)
「知らなかったようだね」
「うん、そんなこと言ってなかったから」
言わないほうが普通だろう。
ベラベラと盗賊団の頭目ですと言ってしまえばおかしい人だと思われる。
「奴は組合と手を組んで、裏切っている」
組合と手を組んでいるという事実に香織は一つの憶測が浮かぶ。
「まさか、懸賞金を懸けた組合の背後にいるのは−−」
「恐らく奴だろうね」
(分からない)
香織目当てで近付いて来たのはまだ分かる。
しかし、その前に攫うなり、脅すなり、他にも方法があったはずだ。
(こんな周りくどいことをする?)
香織はただアイスティーの中で浮かぶ氷をじっと見ながら考えていた。