第13章 赤きリコリス
「大変だ…!どうぞ…中へ!」
「失礼します。」
そう言いながらも八戒は雅を抱き上げていた。ベッドに降ろすと汗をぬぐいながらも冷やしたタオルを頭にのせる。
「なぁ、八戒!雅どうしたんだ?」
「力の使いすぎです。うまく使えているとは言ってもまだまだ本格的ではなかったんです。あれ程の力を一気に使っては雅の体にも負担は大きいでしょう…」
「そんな…雅大丈夫なの?」
「少し休めば、恐らく。」
「そっか……」
「どうします?三蔵」
「なにがだ。」
「何がって……」
その時だ。雅は三蔵の服をそっと掴んだ。
「私…なら大丈夫だよ…出発しないと…」
「……ハァ…」
「でも…これ……伝えて?」
「……」
「ハァハァ…白明ちゃん…本当に翠蘭くんともっと…たくさん思い出作りたかった……って…言ってたよ……大好きだからって……ハァ…」
「…めんどくせぇ」
「フフ……少ししたら…準備するから……」
「寝てろ。」
そう言うとその場を離れた三蔵。八戒は見送りながら口を開いた。
「悟空と悟浄も、三蔵に着いていって下さい」
「でも…」
「僕は少し雅と話もありますし…」
「そんな状態の雅に?」
「大丈夫ですから…」
そういって八戒は人払いをした。雅の額にそっと手を翳し、瞳を閉じる。すると時期に雅の体からは熱が引いていった。
「…ッ…八戒…?」
「僕はね、雅。今結構怒ってるんです。解りますか?」
「……暴走させたこと?」
「違います。自身の力を越えてまで人に力を渡そうとしたからです。」
「でも…」
「でもじゃありません。彼女は、あなたが命を削ってまで守りたい人だったんですか?」
「……ッッ」
「力を暴走させるなと言ってるんじゃないんです。あなたはまず、しっかりと限界を知るべきなんです。それを見誤ると、あなた自身が死んでしまうかも知れません。」
「そんなことは…」
「ないとは言いきれますか?自身の限界を知らないあなたが?」
「……」
そう言いながらも雅を見つめる八戒の目は真剣そのものだった。嘘を吐いている様にも思えなかった。