第12章 まっ更な想いと、唇
軽い舌打ちをしながら三蔵は立ち上がり、法衣を脱いだ状態で探しに向かう。その様子を見て悟浄と八戒は顔を見合わせた。
「行ったか…?」
「えぇ。後は…運任せ…ですね…」
そういい残して検討を祈りながらもそれぞれ片付け等をしていた。
その頃の雅は、ざばっと水から上がり、出ようかと言うときだった。川から上がり、月明かりに眩しいほど照らされた時、ガサリと音がした。
「え…誰?」
小さな声は掻き消された。タオルで隠しながらも足は動かない。
妖怪…?それとも…野生の動物…?
どちらにしても自身に倒せる術はなかった。声がでないでいるときに姿を表したのは三蔵だった。
「チ…こんなとこにいた…のか…」
「……ッッさんぞ…!!」
二人とも一瞬固まっていることに気付いたのは直の事だった。慌てて踵を返す雅と頭を掻いて今更ながらはめられた事に気付いた三蔵。
「そんなに…長い事入ってたかな…ごめん…」
「気にするな…俺は戻ってる」
「あ、まって…!そこにいて?」
「何言ってやがる…」
「でもこっち見ないで…」
「…めんどくセェ…」
そう呟きながらも月明かりに照らされた雅の体が三蔵の思考を珍しくも乱し始めていた。三蔵に背中を向け、急いで服を着ている雅を後からふわりと、両腕が包み込む。
「さん…ぞ…ぉ?」
まだしっかりと最後まで着れていない状態の雅の背中には三蔵の体温がじわりと伝わってくる。ドクドクとうるさい心音を悟られないように雅は三蔵に問いかけた。
「ちゃんと…洗えてないし…」
「何言ってやがる…」
「あの…三蔵…」
「うるせぇ、少し黙ってろ…」
「あのっ…離して?」
「断る…」
そう呟くと三蔵は雅の耳元で話し出した。
「言っておくが…俺は悟浄みたいに愛だの恋だの言わねぇからな」
「…さんぞ…ぉ?」
「それを求めるなら諦めろ」
「別に…私は…ッ…」
「その代わりに…」
そういうといともあっさりと腕を離し、くるりと雅の体を反転させた。月明かりが差し込む中、互いの様子ははっきりと浮かび上がらせていた。
「雅、お前が嫌だと言っても離してやるつもりはない。それも、諦めるんだな…」
いつもなら絶対に言わないような言葉だった。