第56章 菩薩との契約
「言ってんだろうが。どれだけ雅が迷っても、飲み込まれようとしても、俺たちが、俺が居るって言ってんだろうが。」
「……ッッ…」
「西に行く程負が強くなるだ?関係ねえよ。俺が守る『そういうの!』…?」
「……そういうのが重たい……」
「ふざけるな…」
「ふざけてるのはどっちよ…三蔵に必要なのは…私よりも、お師匠様の形見の経文を取り返す…そして西の異変を止めに行くこと。そうでしょ?」
「…比べられねえだろうが…そんなもん」
「三蔵らしくない…」
消えそうな声で呟いた雅。もうこれ以上は吐ける嘘が無い…そう感じた。
「私は…菩薩さんと行くから……大丈夫。死ぬ訳じゃないもん」
「そういう意味じゃねえだろうが…!!」
ゆっくりと顔をあげると菩薩を見つめ、ゆっくりと唇を動かす。
『モ ウ イ イ ・・・』
それを見て、一言解ったと呟いた菩薩。
「な…にしてやがる…」
「天界に行く為には記憶を消させてもらう。」
「ふざけんなよ!このババァ!!!」
殴りかかろうと再度立ち上がる三蔵を悟浄と八戒が後ろから引き留めた。
「離せ!!」
「……暴れんな…」
「うるせえよ!!」
そう暴れる三蔵を見ながら、菩薩は目の前の雅に呟いた。
「雅、もう少し嘘が上手くなれよ、いろいろと下手すぎだ…」
「ありがと…」
菩薩はスッと雅の額に右手をかざし、くっと力を込めた。
「どうする?最後位嘘吐かなくてもいいんじゃねぇの?」
そういわれた。消え行く記憶をたどって雅はふと紡いだ。
「さ…んぞ…」
ア イ シ テ ル …
しかしその想いは言葉になることもないまま、次の瞬間には菩薩の腕の中にどさりと倒れ込んだ。