第54章 あなたの愛で繋いで
部屋を後にしたものの行く宛がなくなってしまった雅。今さら三蔵の元に戻ってもベッドは一つしかないし、悟浄や悟空、八戒の部屋に戻っても直ぐに恐らく連れ帰されることになる。廊下の窓辺にそっと凭れ、空を見上げる。しかし細い月はそれほど明るくもなく、暗闇に飲み込まれそうだった。
「……バカみたい…こんな風に喧嘩して……ッッ喧嘩じゃないか…」
そう呟いていた。ふと左手の薬指に光るリングに触れる。
「三蔵…」
小さく呟いた名前は夜の闇に溶けていった。
「こんな所に居ると風邪引きますよ?」
そんな雅に声をかけてきたのは八戒だった。
「八戒…?」
「なんですか?こんなところで…」
「……私…」
「とりあえずここは冷えますよ?部屋に入りませんか?」
「……でも…」
「あなたに風邪を引かれては困ります」
「風邪は引かないよ…」
「言いきらないでください?」
そう言いながらも八戒は部屋に連れていこうとしたものの動こうとしない雅。少し落ち着こうと広間へと促した。
「どうぞ?……雅?」
「……ヒック……エック…もぉ……やだ……」