第53章 純白の花嫁 (後編)
いつも通りに、しかしとても優しく笑いかける悟浄。きゅっと胸を締め付けられるものの、雅はどうしたものかと考えていた。扉が開く時、悟浄に促されながらも、前を見ることは出来なかった。
一歩ずつゆっくりと、右…左…と明るみの方に向かっているのは解る。それでも最後の最後まで顔はあげれない……なぜか雅はそう思っていた。
左右には長椅子があるものの、人の気配は感じられない。ちらりと視線だけ向けてみても気配がないのは当然と言わんばかりに空席ばかりだ。段々と明るさが増して来る。その時、ピタリと悟浄の歩みは止まった。それでも雅はいつまでも顔をあげられそうにはなかった。上げてしまったら、受け入れなくては行けない…そう感じていたからだろう。そんな時だ。
「…おい、いつまで下向いてんだ、テメェは」
「………ぇ?」
聞き馴染んだ愛おしい人の声。ゆっくりと顔を上げると数歩先には真っ白なタキシードに身を包んだ三蔵が立っている。
「ずっと悟浄に捕まっている気か」
「……ッ」
「ほら、雅。」
そう言うと雅の手を取り、三蔵の手に重ねてやる悟浄。
「フン、貴様のエスコートってのが少々気に食わんが…」
「そう言うなって…」
「三ッ……」
「来い、雅」
そういってきゅっと手を握りしめる三蔵。涙が溢れんばかりに溜まっていく。
「今から泣いてんじゃねぇよ…」
「だって…」
「新郎玄奘三蔵、あなたは雅を妻とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、妻を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「………あぁ。」
「新婦花洛雅、あなたは玄奘三蔵を夫とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、夫を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……ック……はい」
このあまりにも違いすぎる返事の仕方に三人は『おやまぁ…』と言わんばかりに笑っていた。
「それでは指輪の交換を…」
そういわれて雅ははっと気付いた。
「そんな……指輪って……」
おろおろとしながらも悟浄を見るも、『前向け』と言わんばかりに合図されるのみ。
「おい、手、出せ」
「え…三蔵…?」