• テキストサイズ

凜恋心【最遊記】

第5章 災難、そして心


「あの…三蔵……」
「なんだ」
「ごめ…ヒック…さい……」
「泣いてんじゃねぇ、ガキかテメェは」
「泣いて…ない」
「めんどくセェな…」
「三蔵……」

きゅっと袖を掴む雅の手は震えていた。

「私…ごめんなさい…」
「謝ることなんざねぇだろ。なんでもかんでも謝るな」
「だって…三蔵怪我して…」
「怪我にも入らねぇ」
「でも…!」
「とりあえずここ離れるぞ。」

そう言いながらもスタスタと歩いていく。しかし心なしか歩調はいつもよりかゆったりしていた。
少し離れた場所に来て、腰を下ろした三蔵はずっと黙ったままだ。

「あの…三蔵…」
「なんだ」
「私……うまく言えないけど……怒ったりしたらいけないって言われ続けてた。だからかもしれない…大事に物事をしてはいけないし、迷惑をかけたりするのもいけないって…」
「…だからなんだ」
「怒って暴走したらいけないから……」
「力のコントロール、八戒に教えてもらうんだろうが。」
「でも…」
「それがウゼェって言ってんだよ。今までの環境とは違うんだ。自分がどうしたいとか、しっかり言え。怒ったって構やしねぇ。それで喧嘩になったって止める奴は居る。力が暴走したってあいつらには傷一つ付かねぇだろうしな。」
「………ッ」
「着いてくると決めたなら、それを信じろ」
「そりゃ…悟空や八戒や悟浄の強さは信じてる…」
「そうじゃねぇよ」
「…じゃぁ何を…ッ!」

三蔵に言いかけた時だ。トンッと三蔵の右手の拳が雅の胸元に当たった。

「信じたいと思ったものを最後まで信じろ。誰かの強さや、優しさなんかじゃなく。テメェが…雅が信じたいと思ったものを信じて、貫け」
「…三蔵……」
「それだけだ」
「…言ってること…難しい」
「ガキだな…」
「バカとかガキって言いすぎ!」
「…クス」
「何がおかしいのよ!」
「それでいい」
「…え?」

先にすくっと立ち上がると上から見下ろす様にする三蔵。少しだけ傾き始めた太陽がキラキラといつも以上に金糸を光らせた。

「帰るぞ」

そういって先に歩き出す三蔵の後を急いで立ちあがり雅は後を追った。

「待って…!三蔵」
「断る」
「ちょっとくらい待ってくれても…」
「遅い」

そう悪態にも似た言葉を吐きながらも三蔵の口許は微かに緩んでいたのだった。
/ 402ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp