第5章 災難、そして心
「…きゃ!!!」
勢い良く前屈みになったせいか、長い髪は宙を舞う。その時だ。
「うわっ!!やばいぞ!」
「水!」
その言葉と同時に焦げ臭い匂いが鼻に付く。
「…え?」
「動かないで!」
そのぴしゃりと言い放つ女性の言葉で雅は一瞬動きが止まった。次の瞬間だ…
ザクッ……!
パラリと地面に栗毛色の髪が落ちていく。
「…ぇ?」
悟空も呆気に取られていた。その間に、雅の髪はざくりと切られ、大火事にならずにすんだものの、雅の長かった髪はやけに短くなっていた。
「…っ雅!」
「悟空…?」
「大丈夫?怪我は?」
「私は…大丈夫…」
「ごめんなさいね!皆さん、今日はお開きにさせて貰います!」
両手をあげ観客に挨拶をする女性は、直ぐ様雅の元にやってきた。
「ごめんなさい!まさか火がつくなんて…」
「あの…」
「それに女性の髪を切るなんて…本当に申し訳ない…」
そっと頭を撫でてみると、いつもあったはずの長さに髪はなく、顔回りにかかってきていた。
「あ…いいんです…逆に私のせいでお客様帰っちゃって…すみません」
「あの、これ…髪の代わりになんてならないですけど…」
そう言って女性が差し出したのはきれいな色の石が付いたネックレスだった。しかし雅は首を左右に振り、断りを入れたのだった。
「でも…!」
「要りません、私、大切にしたいものはもうありますし…それに髪だってまた伸びますし」
そう言って胸元にある三蔵に買って貰ったネックレスを握りしめた。
「雅…!」
「いいの、悟空、行こ?」
「でも…!」
「いいから…」
そう言いながら強引に悟空の手を引き、その場を離れていった。
「ちょ、待ってよ!雅!」
悟空の問いかけにも答える事無く、雅は俯きながらも歩いていく。