第38章 神と煩悩の狭間
「おい」
「ひ……ひぃぃ」
「ナメた真似してんじゃねえよ…」
「そ…そんな…暴力など……!」
「だったらてめえらが雅にしたのは許されるってのか?…面白れぇ……笑えねえ冗談だな!」
もう一人の胸ぐらをつかみ、再度頬に拳をいれる。地面に倒れ込む坊主達。そんな騒ぎを聞き付けた住職と付き人はやって来る。
「なんの騒ぎですか!三蔵法師様!」
「うるせえよ」
「暴力は!御仏様の前で」
「うるせえって言ってんだろうが」
「まぁ、そうなるわな」
「同感です。大丈夫ですか?雅…」
「ごめ……油断してた」
「あなたのせいじゃないですよ」
「キュキュ……」
「白竜も…ありがと」
「貴様は坊主達の管理も出来ねえのか」
「そ…それは…一体何があったんですか!」
「そんな事はそこの二人に聞くんだな」
そういうと八戒の元に戻り雅を抱き上げた三蔵。
「あぁっ!!そんな…!三蔵法師様ともあろうお方が……!そんな女人を…!」
「ガタガタうるせえんだよ。それとも何だ、俺のすることに文句があるのか…?」
「そうではなく…!」
「煩悩だ何だかんだって言う前にテメエの下に就いてる坊主の教育でもしてやがれ」
「で……でしたら玄奘三蔵様御自ら説法等をお教え願えれないでしょうか…?」
「……は?」
「二代に渡って来院されるのは御仏のお導きにまちがいないのです。女人の立ち入りも特別に許可致します!」
「…それ、光明三蔵にも同じこと言ったろ」
「えぇ……ですが丁寧にお断りされまして…」
「…相変わらず甘いな、お師匠様は…光明三蔵法師が敢えて言わなかった事、変わりに言ってやるよ。」
「……なんと…!」
「いい年こいてわがままばっかり抜かしてんじゃねえよ、ばーーーか」
それを聞いた一行はふっと笑いをこらえ、住職達は呆気に取られながらもやいのやいのと反論している。関係なく三蔵は抱き上げたままの雅を連れて部屋に戻っていった。それを見ながらも一行は三蔵の足元に気付いていた。
「おい…三蔵の足元…」
「……あ、」
「雅の声に草履すら履くのを忘れてくるとは…」
「あぁあ、全く。うちの三蔵ったら…」
そう話しながらもそれぞれ二部屋にわかれて執心に入ろうとしていた。しかし、雅と三蔵は眠れるわけもなかった。