第32章 二つのバースディ
「今日は本当に楽しかったです」
「よかった。八戒……?」
「なんですか?」
「お誕生日おめでとう!」
「…クス、ありがとうございます」
「えと……それでね…」
「はい?」
珍しく洗い物の手が止まる雅。その様子を見て八戒は『ん?』と雅を見つめていた。
「……あの…」
「なんですか?」
「本当におめでとう」
「さっきも聞きましたよ」
「違うの。さっきのは八戒の分」
「……?では今のは…?」
「八戒の…お姉ちゃんの分……」
「…ッッ」
「嫌だったよね…!ごめん……」
「いえ…嫌だなんて事ありません。……ありがとうございます」
「…よかった…」
「え?」
「放っておいてっていわれるかもって…」
「そんなことありません。ただ…」
「ただ?」
「花喃にまで…おめでとうと言って貰ったのは…もう何年もなかったので…」
「……八戒…」
「すみません。情けない話ですが…嬉しすぎても涙って…出るんですね…」
洗い物をしながらもズッと鼻をすすりながらも八戒は袖で涙をぬぐっていた。
「あの…私…、八戒の笑ってる顔見たかっただけで……嫌だったら言ってね…?」
なぜか雅はおろおろとしていた。そんな雅を見て八戒は小さく首を左右に振る。
「そんなことはありません。ただね、最近ふと思うんですが…雅って……」
「八戒?」
「……案外、タラシですよね」
「……え?なんで?……悟浄と一緒?」
「いえ、悟浄のとは違います。」
クスクスと笑みが溢れる。そんな中、洗い物は順調に進んでいき、早々に終えたのだった。部屋に戻るとわいわいとした空間が待ち受けている。
「廊下まで聞こえてますよ?」
「だって八戒!悟浄がぁぁぁ!!」
「あーあ、うるせえ」
「三蔵も、たまには注意してください?」
「めんどくせえ」
「…誕生日会の主役なんだからいいだろ!!」
「本当の主役は八戒だろうが!このチビ猿!」
「うっせえよ!!悟浄のばぁか!」
「なっ!!てめえにはバカっていわれたくねぇよ!このぶわぁぁか!!!!」
「うるせえっていってんだろうが!!!!」
その後、三蔵のハリセンが二人の頭上に落ちたのはいうまでもなかった。