第29章 夜空に咲く、花
「おい、八戒」
「はい?」
「先に行け」
「…ですが」
「あまり人混みに紛れると吐き気がする」
「クス、そうでしたね」
クスクスと笑いながら八戒は悟空の後を追う。
「なぁな!八戒?」
「はい?」
「三蔵と雅、どうしたの?」
「雅が浴衣、着てるでしょ?いつもみたいに歩けないんですよ、だからゆっくり歩かなきゃいけないですし、あのかわいさ、見たでしょ?」
「うん!!」
「だから三蔵にボディーガード頼んだんです。またいつでも、五人揃って花火見れるだろうから今夜は雅に三蔵貸してあげましょう?」
「そうだな!!うん!」
そんな事を話しながら先を歩く二人と、少しずつ距離が空く雅の横に、歩きながら三蔵は歩いていた。
「ごめんね、三蔵」
「何がだ」
「だって…八戒や悟空たちと一緒に回れないし…」
「別に、俺はあいつらと一緒に花火見たい訳じゃねぇよ」
「え…でも…」
「フン……」
「あ……もしかして…私が見たいっていったから?」
「だとしたらどうすんだ…」
「…ありがとう」
「…タク…」
そう短い会話をしながら雅の歩調に合わせて歩く三蔵。自身の浴衣姿になれないということもあわせ、隣を歩く三蔵の服装もまた、慣れなかった。
「三蔵?」
「なんだ」
「……本当に似合ってる…それ…」
「…雅のが似合ってるだろう」
「え?」
「二度は言わん」
「ね、もう一回言って?」
そのお願いを言っている時に花火は上がり出す。
~ーー…・・ドンッ!!
一瞬耳を押さえる雅。しかし次の瞬間に夜空が昼間のように明るくなる。それに誘われる様に顔をあげた雅
「わ…ぁあ!きれい……」
そう見とれていた。じぃっと花火に見入っている雅の顔を盗み見るようにして上から見下ろしていた三蔵。
「……本当に…きれいだな」
「…え?ごめん、何?」
目が合った時だ。ふっと目の前の花火に影が落ちる。
「好きだって言ってんだよ」
「さんぞ…ン…」
ふわりと唇が重なった。すぐに離れるとしれっとした様子で三蔵は花火を見上げる。恥ずかしさといきなりの事で驚いたのとで雅は、きゅっと三蔵の右腕に巻き付いた。
「…おい…」
「三蔵が悪いんだから…」
「……なんでそうなる」
「ばか…」
「花火、見ねぇのか」
「……見るもん」
そう言いながらも腕を絡めたまま、雅もゆっくりと顔をあげて、夜空に咲く大輪の花を見ていたのだった。
